組み込みエンジニアとは?必要な知識・スキル、役立つ資格を解説
組み込みエンジニアは、私たちの日常生活を支え、豊かにするための多くのデバイスやシステムの開発に深く関与している職業です。
組み込みシステムは、自動車のエンジン制御から家庭用電化製品、さらには高度な医療機器まで、日常生活のあらゆる面で利用されています。
この記事では、組み込みエンジニアという職業について、その具体的な仕事内容から必要とされる知識・スキル、さらにはキャリアアップに役立つ資格まで、幅広く解説します。
1. 組み込みエンジニアとは
組み込みエンジニアとは、その名の通り、特定のハードウェアにソフトウェアを「組み込む」ことで、製品やシステムの機能を実現するエンジニアのことを指します。
組み込みエンジニアの主な仕事内容は、特定のハードウェアにソフトウェアを組み込み、そのハードウェアが特定の機能を適切に実行できるようにすることです。
具体的には、以下のような作業を行います。
1-1. システム設計
システム設計は、組み込みエンジニアの仕事の中心的な部分であり、製品やシステムが達成すべき目標を具体化するプロセスです。
具体的には、「要件定義」、「設計」、「テスト計画」があり、これらのステップを通じて、組み込みエンジニアは製品やシステムの要件を理解し、それを実現するためのソフトウェアとハードウェアの設計を行います。
要件定義
システムや製品の開発において、そのシステムや製品が果たすべき機能や性能、役割、制約などを明確にするステップです。
要件定義はプロジェクトの初期段階で行われ、その後の設計や開発、テストの基準となります。
設計
要件定義に基づいて、ソフトウェアとハードウェアの設計を行うステップです。
どのようなハードウェアを使用し、どのようなソフトウェアを開発するのか、そのアーキテクチャやデザインパターンなどを決定します。
また、システムの性能や安全性、信頼性などの要素も設計時に考慮に入れます。
テスト計画
ソフトウェアやシステムの開発プロジェクトにおいて、テスト活動をどのように行うかを明確にするためのステップです。
テスト計画は、開発ライフサイクルの早い段階で作成され、テストの目的、テストの範囲、リソース、スケジュールなどを定義します。
1-2. ソフトウェア開発
ソフトウェア開発は、組み込みエンジニアの主要な業務の一つであり、設計したシステムを具現化するための重要なステップです。
組み込みシステムでは、主にCやC++といったプログラミング言語を使用して、ハードウェアを制御するソフトウェアを実装します。
このプロセスでは、設計図に基づいて機能を実装し、ハードウェアとソフトウェアが適切に連携するようにコードを作成します。
また、ソフトウェアの効率性や信頼性を確保するため、コードの最適化やリファクタリングも行います。
1-3. システムの最適化
システムの最適化は、組み込みエンジニアの重要な業務の一つで、システムのパフォーマンスを向上させるために行われます。
この業務では、ソフトウェアの改良やハードウェアの調整に加えて、リソースの使用を最小限に抑える、電力消費を減らす、レスポンス時間を短縮するなどサービスの性能に関わるものです。
システムの最適化は、システムがスムーズに動作し、ユーザーエクスペリエンスを向上させるために不可欠であり、組み込みシステムはしばしば限られたリソースや電力供給の中で動作するため、これらの最適化作業は特に重要となります。
2. 組み込みエンジニアに必要な知識・スキル
組み込みエンジニアになるためには、特定の知識とスキルが必要となります。
主にソフトウェアの設計と開発から、ハードウェアとの連携、そしてシステムの最適化など、組み込みエンジニアの基礎となるものです。
本章では、組み込みエンジニアに必要な主要な知識とスキルについて詳しく解説します。
2-1. プログラミングスキル
組み込みエンジニアにとって最も基本的なスキルはプログラミングです。
特に、C言語やC++は、その効率性と直接的なハードウェア制御能力から、組み込みシステム開発において広いシェアで使用されます。
これらの言語は、ハードウェアの単純な操作を可能にし、リソースが限られた環境でも最大限のパフォーマンスを引き出すことができます。
組み込みエンジニアは、プログラミング言語を使いこなし、効率的で信頼性の高いソフトウェアを開発する能力が求められます。
2-2. リアルタイムオペレーティングシステムの知識
リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS: Real-Time Operating System)とは、特定の時間制約内でタスクを確実に完了させることが求められるシステムのためのオペレーティングシステム(OS)です。
一般的なOS(例えばWindowsやmacOSなど)は、多くのタスクを同時に処理することを重視して設計されていますが、これに対してRTOSは「リアルタイム性」を重視します。
つまり、特定のタスクが指定された時間内に確実に完了することを保証します。
このリアルタイム性は、組み込みシステム(例えば自動車のブレーキシステムや航空機のフライトコントロールシステムなど)においては非常に重要です。
リアルタイム性が求められるシステムでは、タスクの完了が遅れると重大な問題(安全上のリスクなど)を引き起こす可能性があるため、RTOSが使用されます。
2-3. ソフトウェア知識
組み込みエンジニアに必要なソフトウェア知識は多岐にわたりますが、その中でも特に重要なのが、デバイスドライバーとソフトウェア開発ツール、そしてソフトウェアテストの知識です。
デバイスドライバーは、ハードウェアとソフトウェアの間で情報をやり取りする装置であり、特定のハードウェアデバイスを制御するためのソフトウェアを作成したり、既存のものを調整したりすることができます。
また、ソフトウェア開発ツールは、コードの作成からデバッグ、バージョン管理まで、開発プロセスをスムーズに進めるための重要なツールです。
ソフトウェアテストの知識は、開発したソフトウェアが正しく機能することを確認し、品質を保証するために必要で、単体テストや統合テストなどのテスト工程、そしてテスト自動化の知識が求められます。
2-4. ハードウェア知識
組み込みエンジニアは、ハードウェアについても理解している必要があります。
なぜなら、ソフトウェアがハードウェアと適切に連携し、最大限のパフォーマンスを発揮するためには、デジタル回路、マイクロコントローラ、センサーなどのハードウェアの基本的な知識が必要だからです。
デジタル回路の理解は、電子デバイスの動作原理を把握するために重要であり、マイクロコントローラの知識は、組み込みシステムの中心的な部分であるプロセッサの動作を理解するために必要です。
また、センサーの知識は、環境からの入力を適切に処理するために重要であり、これらの知識を持つことで、組み込みエンジニアはソフトウェアとハードウェアが効率的に連携するシステムを設計・開発することができます。
3. 組み込みエンジニアに役立つ資格
組み込みエンジニアとしてのキャリアを高める上で、資格を取得することは大きなアドバンテージとなります。
以下、組み込みエンジニアにとって有用な資格を紹介します。
3-1. ETEC(組込み技術者試験制度)試験
ETEC(組込み技術者試験制度)は、一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)が実施する、組み込み系ソフトウェア技術者向けの試験です。
この試験は、合否判定ではなく、受験者のスキルの指標となるよう試験結果は点数で返され、学習の到達度判定や技術者評価の目安に活用されます。
試験は「組込みソフトウェア技術者試験クラス2」と「組込みソフトウェア技術者試験クラス1」の2つのレベルがあり、それぞれ異なる難易度と出題範囲が設定されています。
日本全国のピアソンVUE社公認試験会場で随時受けることができ、受験料は「クラス2」が15,000円(税別)、「クラス1」が20,000円(税別)です。
なお、「クラス1」を受けるためには、「クラス2」で500点以上のスコアを獲得することが必要であり、「クラス2」は800点満点で評価され、「クラス1」はグレードのみの評価となります。
3-2. エンベデッドシステムスペシャリスト試験
エンベデッドシステムスペシャリスト試験は、情報処理推進機構(IPA)が実施する試験で、IoT時代に必要となる組込みシステムの専門知識を証明することができます。
この試験は、ハードウェアとソフトウェアを適切に組み合わせたシステムの企画・開発を推進し、必要な機能・性能・品質・セキュリティを確保する能力を持つ、組込み・IoT系のフルスタックエンジニアを目指す方に最適です。
試験は、市場動向や関連業界の動向を踏まえた組込みシステムの事業戦略や製品戦略の策定、ハードウェアとソフトウェアの要求仕様の策定、そして開発・実装・テストを計画・実施する業務に関する知識とスキルを問います。
試験は4部構成となっており、それぞれ以下のようになっています。
・午前Ⅰ
9:30~10:20(50分)
多肢選択式(四肢択一)
出題数:30問
解答数:30問
・午前Ⅱ
10:50~11:30(40分)
多肢選択式(四肢択一)
出題数:25問
解答数:25問
・午後Ⅰ
12:30~14:00(90分)
記述式
出題数:2問
解答数:1問
・午後Ⅱ
14:30~16:30(120分)
論述式
出題数:3問
解答数:1問
4. まとめ
組み込みエンジニアは、私たちの生活を支える多くのデバイスやシステムの開発に携わる非常にやり甲斐のある仕事です。
組み込みエンジニアになるためには、プログラミングスキル、ソフトウェアとハードウェアの知識、RTOSなど、組み込みエンジニアとして基本となるスキルの習得が必要です。
近年では、IoTやAIの発展により、組み込みシステムは私たちの生活のあらゆる面で活用されるようになり、その結果、組み込みエンジニアの需要は高まっています。
IoTやAIを活用した製品やサービスの開発には、組み込みシステムの知識だけでなく、データ分析や機械学習などの新たな技術も求められるため、自身のスキルセットを拡大することで、組み込みエンジニアは更なるキャリアの展開を見込むことができるでしょう。