仕事の流れを可視化する業務フローの作り方
前回紹介したマニュアルと近しいドキュメントにはなってしまいますが、マニュアルと業務フローは全く別の観点から作り上げるドキュメントです。
マニュアルは、システムの操作方法などを記したドキュメントなのに対して、業務フローは【仕事の内容や手順を図で表したもの】です。
業務を視覚化することで、見落としを行うリスクが軽減し、文章で手順を読むよりもわかりやすく、全体像を掴みやすくするというメリットがあります。
各現場によっては非常に読みづらい業務フローが整備されていますが、適切に書かれたフローであれば業務の流れを直観的に理解しやすく、業務マニュアルや新人研修としても活用できるため、非常に効果的です。
担当者が業務を改善したり、他部署の業務について相互理解を深めたりするツールとしても有効です。
小規模・中規模のシステムにも活用できますが、大規模なシステムにおいては、全体の機能を業務フローで表すことができるので、保守性の向上にもつなげることができます。
障害が発生して調査をおこなう場合などでも、ソースコードのみを調べると時間がかかりますが、業務フローがあれば、機能ごとのきりわけができるので問題を早く特定しやすくなります。
もちろん、システムの機能拡張や業務内容の変更の際も、業務フローがあれば検討資料としても活用されるシーンが多いです。
業務フロー作成の目的をまとめると、
・業務の視覚化、標準化
・業務の問題の発見
・担当者および他部署間の業務の把握、相互理解
・業務の保守性、拡張性の向上
1. 業務フローの種類
業務フローにはさまざまな書き方がありますが、代表的な種類をご紹介します。
JIS(日本工業規格)X0121 情報処理用流れ図
一般的な業務フローで使われている記号などは、JIS(日本工業規格)で規格が定められています。処理を表す記号の形や流れも決まっているため、誰が見ても同じように処理やプロセスの内容を把握できます。
DFD (データフロー図)
データのインプット元、アウトプット先や格納先を表す図で、システムの分析や設計段階でよく使われるフロー図です。業務フローのように処理を実行するタイミングや順序を表すのではなく、DFDではデータ処理の流れのみを示しているため、その他の項目は一切記載されていない部分が特徴です。
UMLアクティビティ図
本来はプログラムの処理の流れを表すフロー図のUML版として定められました。システムの流れだけでなく、一般的な業務フローとしても使用することができます。
BPMN ビジネスプロセスモデリング表記法
UMLアクティビティ図とよく似た図表を用います。社内外の関係者が業務の実行に対して共通認識を持つことを目的とした、フローの表記法です。
2. 業務フローと類似している言葉
本章では、業務フローと類似している言葉について解説していきます。
フローチャート
フローチャートとは日本語で【流れ図】のことを指しており、プロセスを図や矢印で表す方法のことです。こちらも、JIS(日本工業規格)で定められた記号を使うことで、フローチャートを見た人が誰もが同じようにそのプロセスを理解することが特徴です。
フローチャートは、主に情報処理の順序や工程を表すために使われますが、その他に問題を解決するための手順や物事の進め方の整理などにもフローチャートは有効です。
整理すると、仕事の流れを【フローチャート】で表し、視覚的に整理しているのが【業務フロー】という切り分けをおこないます。
プロセスマップ
上記で解説したように業務フローは、ひとつの業務の流れを詳しく図解したものです。対して、プロセスマップは組織内の全ての業務フローを関連付ける、全体の業務の階層を視覚的に表した図です。
プロセスマップ内のプロセスについて、正しく詳細に書かれた手順が業務フローです。
プロセスマップを見て、業務フローの作成漏れがないかチェックできます。
3. システム開発の現場以外で業務フローを使う職種
システム開発の現場で使われるイメージが強い業務フローですが、その他にもあらゆる業種・職種で使うことができます。
・金融機関
事務作業の業務フローを作成することで事務処理の均一化を図る。
・不動産会社
賃貸契約業務において営業と事務の各業務フローを作成し、担当者同士の理解を図る。
・製造業
広範囲な生産管理業務において、業務フローを作成して問題点を洗い出し業務改善につなげる。
・医療現場
救急患者受付の業務フローを作成し、緊急時の対応に不備がないか確認する。
・学校事務
学生が受講する授業の登録手順を業務フローで作成し、学生からの問い合わせ軽減につなげる。
業務フローの使い方は組織によってさまざまですが、仕事の流れを視覚化し、業務の内容をわかりやすくすることで、業務の改善や効率化につながります。
4. 業務フローを書く前の準備は?
業務フローだけに限らず、何かの図を作る際に、いきなり記号などを描くのは無謀です。
作成前に下記の手順でしっかり準備すると、効率的な業務フロー作成への近道となります。
1. 作成する目的を決める
これから作ろうとしている業務フローは、自分のメモ変わりとして使う予定ですか?他社員への引継ぎ用のマニュアルに加える予定ですか?クライアントに業務を説明するためのものですか?
最初に、その業務フローは誰に示すものなのかを明確にしましょう。
誰に向けた業務フローかを明確にした後は、業務フローの内容について決定していきます。
現在の業務に忠実なフローを書くのか、業務改善のために理想とするフローを書くのか、業務フローを作成する目的を明確にしましょう。
業務フロー作成の目的がはっきりすることで、どのくらい詳細な業務フローが必要かを正しく判断できます。
2. 担当者や部署を洗い出す
業務フロー作成に当たって、業務に関わる担当者や部署、クライアントなど全ての関係者を洗い出します。ここで洗い出した関係者は、必要に応じて業務フローのスイムレーンに追加します。
3. タスク(作業)を洗い出す
タスクの関係者にヒアリングを行い、その業務の手順やタスク(作業、処理など)を洗い出します。開始や終了のタイミング、判断が必要な場合の情報など、すべてのタスクを細かくリストアップします。
4. タスクの分類
上記3で洗い出したタスクを、業務フローに記載する必要があるタスクと、記載する必要のないタスクに分けます。5. タスクを時系列で並べかえる
「業務フローに記載が必要」と分類されたタスクを、業務の流れと照らし合わせて時系列に並びかえをおこないます。5. まとめ
今回は業務フローの作成方法について解説していきました。
前回紹介したマニュアルと業務フローの違いについても、少しはご理解いただけたのではないでしょうか。
マニュアルと同様に業務フローも、引継ぎや共有などに用いるドキュメントの1つなので、誰が見ても分かるような業務フローを作成することが重要となってきています。
マニュアルと共通している観点としては、使い手(ユーザー)目線に立つことが重要という部分です。
ユーザー目線に立って考える意識は、ドキュメント作成以外の部分(プログラム実装工程)においても活かせる知識となるので、今後意識して取り組んで頂ければと思います。